市場で勝つためには、まずは職場で勝たなければならない~低迷する組織を市場の勝者に変えたダグ・コナントの名言~
業績不振からの脱出:内側から変革を始める
業績が低迷し、市場シェアが落ち、チームのモチベーションも下がっている—そんな状況に直面しているなら、どこから手をつければよいのでしょうか。
多くのリーダーは新しい戦略や市場拡大策、コスト削減など外部に向けた対策を最初に考えがちです。
しかし、本当の復活は意外な場所から始まります。
それは、職場の変革からです。
危機的状況から企業を再建するには、まず社内から変えていく勇気が必要なのです。
危機から再建へ:キャンベルスープの復活を導いたリーダー
“To win in the marketplace you must first win in the workplace.”
(市場で勝つためには、まず職場で勝たなければならない。) – ダグ・コナント
この言葉には、ビジネスの本質的な成功要因に関する深い洞察が込められています。
コナントは、外部市場での競争力が、内部の組織文化と従業員のエンゲージメントに直接根ざしていることを理解していました。
低迷企業の劇的な復活を主導
ダグラス・コナントは、2001年から2011年までキャンベルスープ・カンパニーのCEOを務めました。
就任当時、同社は株価が半減し、市場シェアを失い、従業員モラルも最低水準という深刻な経営危機に陥っていました。
コナントはこの状況を根本から変えるために、まず社内文化の改革から着手しました。
「従業員が価値を感じなければ、顧客も価値を感じることはない」という信念のもと、10年をかけて従業員エンゲージメントを業界最低レベルから最高レベルへと引き上げ、それに伴って株主総利回りも業界平均を大きく上回る成果を達成したのです。
従業員エンゲージメントを最優先した経営改革
コナントの経営哲学の中核にあったのは「高業績文化は高エンゲージメント文化から生まれる」という確信でした。
彼は就任時に従業員エンゲージメントを測定し、キャンベルが業界最低レベルにあることを発見しました。
これを変えるため、コナントは従業員との信頼関係構築に尋常ならぬ努力を注ぎ、在任中に実に2万通以上の手書きの感謝状を社員に送りました。
コナントは「従業員エンゲージメントは単なる満足度を超え、組織への情熱的なコミットメントと貢献意欲を意味する」と説き、10年かけてキャンベルの従業員エンゲージメントスコアを業界トップレベルへと引き上げました。
一人の人間として認められ、価値を認められるという経験が、従業員の会社への献身と仕事への情熱を引き出すことを、コナントは身をもって証明したのです。
コナントが示す「職場で勝つ」とは何か
コナントにとって「職場で勝つ」とは何を意味したのでしょうか。
それは単に従業員が満足している状態ではなく、組織全体が活力に満ち、人々が自発的に貢献したいと思う環境を作り出すことでした。
彼のリーダーシップから学べる「職場で勝つ」ための3つの要素は以下の通りです。
- 「共感」と「厳格さ」の両立——「タフマインド、テンダーハート」
コナントのリーダーシップスタイルは「タフマインド、テンダーハート(厳しい心、優しい心)」と表現されます。彼は厳しい業績目標を掲げ、結果に対する責任を明確にする一方で、人間的な配慮と共感を忘れない姿勢を貫きました。「人は最初にあなたがどれだけ気にかけているかを知るまでは、あなたがどれだけ知識を持っているかを気にしない」というコナントの言葉は、リーダーシップにおける人間関係の重要性を端的に表しています。 - 信頼関係の構築——「リードする前に、つながれ」
コナントは「リードする前に、つながれ(Connect before you lead)」をモットーとしていました。彼は特に中間管理職との関係構築に力を入れ、彼らが現場と経営層をつなぐ重要な役割を果たすことを理解していました。定期的な対話の場を設け、現場の声に耳を傾け、中間管理職に適切な権限を委譲することで、組織全体の一体感と方向性を強化したのです。 - 持続的な取り組み——「一貫性と継続的な改善」
コナントは「リーダーシップはマラソンであり、短距離走ではない」と述べ、継続的・漸進的な改善の重要性を強調しました。キャンベルでの改革は一夜にして成し遂げられたものではなく、「スープを少しずつ良くしていく」という地道な積み重ねの結果でした。この一貫性と持続的な取り組みが、長期的な組織文化の変革と市場での成功につながったのです。
「職場で勝つ」ためのコナントからの3つの具体的ヒント
コナントがキャンベルスープで実際に行った取り組みから、今日のビジネスリーダーが従業員エンゲージメントを高めるために活用できる具体的なヒントを紹介します。
- 手書きの感謝状で個人的な認識を示す
- コナントは在任10年間で2万通以上の手書きの感謝状を従業員に送りました。これは単なる形式的な表彰ではなく、具体的な貢献を詳細に記した個人的なメッセージでした。彼は毎日早朝に時間を確保し、前日に素晴らしい貢献をした従業員への感謝状を書くことを習慣にしていました。テクノロジーが発達した現代でも、このような「アナログ」な個人的認識が持つ力は大きく、人々のエンゲージメントを高める強力な方法となります。
- 「リーダーシップ・モデル」を明確に定義・共有する
コナントはキャンベルで「CPOモデル(Competence, Purpose, Objective:能力、目的、目標)」と呼ばれるリーダーシップの枠組みを確立しました。これにより、「良いリーダーシップとは何か」という共通理解を組織全体で持つことができました。特に彼は抽象的な概念ではなく、日々の業務で具体的に「どのような行動がCPOモデルの実践なのか」を示すことに力を入れ、理念と実践の橋渡しを行いました。明確で実践的なリーダーシップモデルの共有は、組織全体の一貫性とエンゲージメントを高める効果があります。 - 日常的な「経営層との対話の場」を創出する
コナントは「Campbell Leadership Town Halls」と呼ばれる定期的な対話の場を設け、すべてのレベルの従業員が経営陣と直接対話できる機会を作りました。これは形式的な会議ではなく、率直な質問や懸念を共有できる場として機能し、組織の透明性と信頼構築に大きく貢献しました。今日では、オンラインプラットフォームを活用したバーチャルタウンホールなど、多様な形での対話の場を創出することができます。重要なのは対話の頻度と質であり、従業員が「声が聞かれている」と実感できる環境づくりです。
マーケティングにおける「職場で勝つ」の意義
コナントの「市場で勝つためには、まず職場で勝たなければならない」という教えは、特にマーケティング領域において重要な示唆を与えてくれます。
マーケティングの成功は、創造性、情熱、チームワークに大きく依存します。どれほど優れたマーケティング戦略も、それを実行するチームが情熱を持って取り組まなければ、期待した成果を上げることはできません。
顧客体験を設計・提供するマーケティングチームが、自らポジティブな体験をしていないとすれば、それは顧客にも伝わってしまうのです。
特にデジタル時代のマーケティングでは、急速な環境変化への適応力と創造的問題解決が求められます。
こうした能力を最大限に引き出すには、チームメンバーが心理的安全性を感じ、自由に意見を述べ、リスクを取る勇気を持てる文化が不可欠です。
コナントが実践したような「認識」「つながり」「支援」に基づくリーダーシップは、このような創造的な文化を育む土台となります。
また、マーケティングチームはしばしば組織の様々な部門と協働する必要があります。
製品開発、セールス、カスタマーサポートなど、顧客体験に関わるあらゆる部門との効果的な連携が、一貫したブランド体験の提供には欠かせません。
コナントが中間管理職の連携を重視したように、マーケティングリーダーも部門間の「つながり」を促進し、組織全体が一丸となって顧客価値を創造できる環境を整えることが重要です。
強力な組織文化と高いエンゲージメントが市場での成功の礎となる—ダグ・コナントの名言を胸に、まず「職場で勝つ」ためのリーダーシップを実践してみませんか?
